水工学研究室について

地球山と森、そして川を経て海に至るまでの自然環境と防災を取り扱う。地球上の植物は、太陽の光を受け、大地と大気から栄養と呼吸を与えられ、生物に必要となる栄養源を作り出す。ミツバチに密を与え、鳥に木の実を与える。生物活動は、植生の繁殖域を広げ、地球上で起こる様々な災害を生き残れる術を与える。自然の多様性は、地球上で全ての生物が生きていくために必要不可欠な要素と言えよう。
 

台風は、時として災害をもたらすが、雨を運び、大気の交換作用を高め、そして海に活力を与える。台風は森林の掃除屋でもあるし、海洋の掃除屋としての作用も合わせ持つ。例えば、台風で発生した荒波は、沿岸のサンゴ礁を痛めつけるが、逆に沿岸部の流れの淀みを取り払い、サンゴを被う藻や病原菌、弱ったさんご礁や土砂を一掃してくれる。
 

台風自然環境は、多様性があるがゆえにいかなる災難にも耐え得る術があると言える。こうした多様性に富む自然環境を理解することは容易なことでない。我々は、同じ人間のことですら十分に理解できるわけでない。ましてや、自然のことをどれほど理解できていると言えるだろうか?
 

当研究室では、大気の流れ、河川の流れや生態系、沿岸および海洋の流れや生態系の研究などまさに地球環境と密接に関わる研究を中心として行っている。そのためには、高校でならう生物、化学、物理、数学などの基礎科目を発展させた学問を必要とする。
 

空気の流れや海の流れを物理的あるいは数学的に記述するにはNewton力学という古典物理学を必要とする。科学的に調べてみると、自然に見出される流れには、それを支配する物理法則が存在することが分かる。通常、わたし達の身の回りの流れの殆どは、ナビエ−ストークス方程式(Navier-Stokes equation、N-S方程式)に従うと言われる。毎日行われる天気予報もこの方程式を基本とする予測に基づいている。
 

流れを数学的に記述する試みは、1750年代にEuler(オイラー)によって行われた。その後、多くの科学者が関わり、Eulerから100年を経てN-S方程式が完成したとされている。それから一世紀半もの間、今日に至るまで、N-S方程式が流れの支配方程式と考えられている。物理学者や数学者らの巨匠らによって作り上げられてきたこのN-S方程式は、流れに関わる者にとって、いわば天から授かった方程式といっても過言でない。
 

ストークスだが、このN-S方程式に疑義を投じる科学者がこれまでいないわけでもなかった。ドイツの流体力学者H. chlichtingは、彼の著書Boundary-Layer Theoryで、Stokes(ストークス)がN-S方程式を構築するに用いた仮説は受け入れ難いが、N-S方程式が与える結果は、かなり困難な問題においてさえも良い近似をもたらしているので、彼の理論は受け入れざるを得ないだろうと述べている。
 

しかし、 Stokes自身の書いた論文(1845年)を注意深く読んでみると、彼は次のように述べている。「私の仮定に基づく理論は、現象を良く説明することになるだろう。だが、そうだからといって、このことが私の仮説の妥当性を支持するものでない。なぜなら、我々の周りで起こる流れ現象の殆どが非圧縮的であるからである。」
 

当研究室は、こうした流体力学の根幹をなすような基礎理論の問題とも取り組んでいる。この問題に対しては、N-S方程式を構築する際にStokesの与えた仮説は誤りであるとの指摘を行い、新しい支配方程式を提案している。しかし、この問題は、流れの問題のみに収まるものでなかった。
 

流体力学流れを支配する方程式に名を冠するNavier(ナビエ)は、流体力学者というよりも橋や構造物を作る技術者であり、固体の力学を取り扱う弾性学、構造力学あるいは材料力学に関わる研究者であった。また、流体力学の支配方程式を構築する時代は、盛んに固体材料の変形を支配する方程式の議論が行われていた時代でもあった。固体の力学の礎となっているのが、Hookeの法則(1678)である。
 

R. Hookeは、Newtonと熾烈な著作権騒動を起こしたことで有名であるが、Newtonが運動の法則を発表する年(1687)の10年も前に、力と物の変形との関係を示し、運動量の時間的変化が力に等しいとする運動の法則とは別に力の定義を行っている。
 

建築物を支える材料の力、土を支える力など、材料力学に関わる力は、通常Hookeの法則に規定されている。これに対し、流れの中で現れるマサツ応力(粘性応力)は一般にNewtonの粘性法則に規定されている。これらHookeの法則やNewtonの粘性法則がいかように書けるかに新しい理論を提唱いていることも当研究室の特筆すべき研究成果として上げられよう。これらのことについては、関連事項を参考にして頂きたい。
 

こうした学問の基礎となる研究に加えて、わたし達の身近な生活環境や防災に関する研究にも力を入れている。琉球大学が唯一亜熱帯地域でかつ島嶼環境下にあるということで、亜熱帯環境に特化する研究も盛んに行われている。
それらの例として、リーフ上の波の変形やサンゴ礁上の流れ、高潮、漂砂現象、赤土流出問題、津波災害、沿岸生態系などの研究に加え、統合的沿岸管理の構築や海岸空間の景観設計等に関する研究が挙げられる。
 

こうした沿岸や外洋など海に関わる研究に加え、河川や水文に関わる研究も行っている。さらには、生態学、地球環境に関わる研究も行っている。
 

当研究室では、身近な自然環境から地球環境、そして防災に関わる研究を行っている。研究は、実験室での研究、野外での観測、そしてコンピュータによるシミュレーションなどに基づいて行われている。研究の多くは、大学4年生の卒業研究、大学院修士過程の学生による研究、大学院博士課程の学生による研究、それに社会人や学外企業による研究などの形で行われる。
 

研究成果は、学内の速報や学会の論文等で発表されている。また、高校生や社会人を対象として、依頼先へ出向いての講演や出前講義を行い、研究や教育で得られた成果を社会還元することにも努めている。

琉球大学工学部 環境建設工学科 水工学研究室